そのサブリース、本当に安心できますか?

2024/07/29

「サブリース」とインターネットで検索すると、TVコマーシャルや雑誌広告等でしばしば目にする「長期安定収入」と言った前向きの宣伝文句とは裏腹に、「サブリースのデメリット」や「トラブルに注意!」と言った、注意喚起を促す文言の並ぶサイトが多数ヒットします。
これは一体どういうことでしょうか?

ここで「サブリース事業」とは、建物所有者(オーナー)が、サブリース会社に対して一括して建物を賃貸(マスターリース)し、サブリース会社はオーナーに代わり、転貸人として各住戸の入居者へ転貸(サブリース)する事業を指します。
つまり、賃貸に際して本来オーナーが負う空室リスクを、借家人(兼転貸人)であるサブリース会社が代わって負うことになるため、オーナーにとっては手間要らずの安定した賃貸事業になるわけです。
とりわけ「サラリーマン大家さん」等、専ら副業として賃貸事業を行う方、賃貸経営が初めての方には空室リスクを気にせず、かつ賃貸管理・建物管理の煩わしさからも解放されるため、利便性の高いサービスと言えます。
ところが、実際にこれを行ったオーナーの方からは、メリットどころか大幅なデメリットが生じた、手取マイナスどころか物件を売却する羽目となった、という声すら耳にすることもあります。
これがサブリース事業の持つ負の側面であり、建築から概ね10年を経た頃、つまり建物の老朽化等に伴う賃料の下落や大規模修繕の必要性が出てくる辺りから、こうした問題が徐々に顕在化してきます。
一体何故なのでしょうか?

法律を学んだ経験のある方であればご存じかも知れませんが、建物の賃貸借に際しては、民法の特別法としての位置づけである「借地借家法」が適用されます。
その源流は明治・大正の時代に遡りますが、この法律は、大家さんと比べて社会的・経済的にも立場の弱い、「借地人」や「借家人」を保護するために制定されたものです。
現行の借地借家法は平成4年に施行されましたが、相対的に立場の弱い借地人や借家人の保護といった基本理念に変化はありません。
ところが、バブル崩壊後の平成半ばにかけて頻発したサブリース訴訟では、「(借家人である)サブリース業者にも同様に借地借家法の適用がある」とされた最高裁判例を受け、サブリース業者がこぞって借地借家法を盾に、サブリース賃料の一方的な値下げ要求、サブリース契約の解約拒否、或いは契約解除に際し法外な立退料を要求すると言った事案が多発するようになりました。

NHK総合でTVドラマ化された漫画「正直不動産」でも、このサブリース問題が取り上げられました。
悪徳不動産業者が、サブリース物件のオーナーに対して不当な賃料減額を迫り、納得できないオーナーが解約申出を行ったところ、借地借家法の最高裁判例を盾に「解約には正当事由と莫大な立退料の支払が必要だ!」と脅してオーナーに泣き寝入りを迫りました。
最終的には、同じ境遇のオーナーたちが連帯して不動産業者を相手に集団訴訟を提起したことで、不動産業者は止む無く解約に応じたという結末でしたが、こうした話は決して漫画やドラマの中だけの話ではありません。

そもそも借地借家法の立法趣旨は、社会的・経済的弱者の救済にあるわけですから、ごく庶民的な感覚から申せば、資本力、情報量や交渉力で圧倒的に勝る法人が、社会的・経済的に立場の弱い個人・中小不動産オーナーを相手に、借地借家法を「正当な権利」として振りかざして行使することには違和感を覚えます。
法律上の権利を有することと、その権利を実際に行使するかどうかは別の問題です。

たとえそれが正当な権利の行使であったとしても、サブリース会社にとっての「お客様」であるオーナーへの対応として、果たして適切であると言えるのか、或いは企業倫理や企業コンプライアンスに照らして適切な対応と言えるのか?
更に言えば、企業統治(ガバナンス)や持続可能的な企業の在り方として、株主や広く社会一般に受け入れられる対応と言えるのか?
こうした様々な疑問について、営業現場はもとより経営レベルでも十分な議論や検討を重ねた上で対応を決めるのが、社会的責任のある企業としての本来あるべき姿ではないでしょうか。

とかくコンプライアンス意識に乏しいと言われる不動産業界ですが、個々の企業における一つ一つの対応の積み重ねがサブリース業界、ひいては不動産業界全体の風評に直結することを考えると、法規制や判例頼みとするのではなく、業界の自主規制ルール等、自律的な対応の枠組を一日も早く構築することが必要なのかもしれません。
自社の利益追求ばかりに奔走するのではなく、個々の企業が襟を正して、お客様であるオーナーと誠実かつ対等に向き合うことで、いずれサブリース業界が、「真に顧客から安心して信頼される業界」に生まれ変わることを願って止みません。

 ご参考までに、不動産コンサルティング実務者向け月刊誌「不動産フォーラム21」(公益財団法人不動産流通推進センター刊)に掲載されたコンサルティングエッセイ「不動産税務相談の現場から~サブリースよもやま話」その1(第8回)、その2(第9回前編第10回後編)をご紹介させて頂きます。
今回のエピソードが、サブリース問題への早めの対処と、真に「安全・安心な円満相続対策」の気付きに繋がれば幸いに存じます。
弊所では、今後も様々な視点から情報発信に努めて参りたいと思います。