「タワマン節税」判決に見る過度な相続税対策に潜む危険

2022/05/08

先月、いわゆる「タワマン節税」と呼ばれる節税テクニックを使った相続事案に係る注目すべき判決が最高裁において判示されました。(事案概要は末尾ご参照。)
「タワマン節税」とは、相続財産を現預金ではなく不動産に代えておくことで、財産評価額を下げることが出来る評価メリットを活かし、より評価額の圧縮効果が高いとされる居住用超高層建築物(タワーマンション)の購入により、相続税額を大幅に減らすことが出来るという節税テクニックです。(因みに、平成29年度税制改正において居住用超高層建築物に係る固定資産税課税の計算方法が見直されたことにより、節税メリットは縮減されています。)

この事案では、不動産の評価手法を巡る妥当性が争点となりました。
仮にタワマン節税を行わなかった場合、課税価格合計額は6億円超となるところでしたので、不動産評価手法の差異によりこれが3千万円以下(※)となってしまうのは、違和感というよりむしろ驚きを覚えました。(※借入金に基づく債務控除等による効果を含みます。)
相続人の主張は、国の定めた原則的な評価方法(財産評価基本通達、以下「財基通」)に基づき相続財産評価を行ったのに、何故それが否定されなければならないのかという趣旨であり、心情的には理解できるものです。
一方、業界関係者からは、一体どのような場合に財基通に基づく評価が「著しく不適当」と判断されるのかといった基準が不明瞭であり、これまで行ってきたタワマン等を使った「不動産節税対策」が否認されるケースが今後頻繁に出てくるのではないかと言った懸念が広がり、判決の行く末に注目が集まりました。

最高裁は、国税当局の主張を支持する判決を下しました。
憲法では、国民の三大義務の一つとして「納税の義務」を規定していますが、納税に不公平が生じることの無いよう、租税法においては「平等に取扱うこと」が基本原則とされています。
最高裁は、判決理由において「租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される」と述べています。
この点、租税負担の軽減を図る必要がある場合には、納税者が平等に負担軽減措置の恩恵を受けることが出来るよう、租税特別措置法等により、負担軽減の目的や意図、対象・要件を明確にした上での制度的枠組みがきちんと設けられています。
裏を返せば、特定の納税者だけが得をするような節税テクニックは、そもそも制度的枠組みの範疇外にあり、これを使う場合のリスクは自己責任で、と言うわけです。
今回の事案に照らせば、財基通に基づく原則的な評価手法が、先行する不動産市場の実態を反映しきれていない中、それを逆手に取る形で、特定の納税者に有利に働く節税手法により大幅な税負担の軽減を容認することは租税負担の平等の見地から好ましくない、と判断されたということでしょう。

相続税務・不動産評価それぞれの視点と官民双方の立場を理解する弊所の見解としては、過度にテクニックに依存した相続税対策は応分のリスクを伴い、持続可能的でないケースも多いことから、余りお薦めしないということです。
税制改正の度に制度の盲点を突いた様々な節税対策が溢れ返りますが、当局は納税者に著しい不公平が生じないよう、そうした情報を適時に収集し対応可否を含む検討を行っています。
とりわけ「租税回避行為」と見做されかねないテクニカルな節税手法は、早晩マークされることになります。
このため、折角、高額なコンサル手数料を支払いテクニカルな節税対策を講じても、結果的には税制改正等の制度改変に伴い適用除外となる、或いは本件の如き更正処分の憂き目に逢うといったリスクは避けられないのが実態です。

不動産の場合、特例適用要件、分割方法や権利取得方法の工夫等により、リスキーな手法を使わずとも一定程度評価額の縮減を図ることは可能です。(但し、そのためには不動産・税務両方の実務に精通していることが前提となります。)
ただ、相続実務の観点からは、こうしたテクニックを駆使した相続税(節税)対策よりも、むしろ相続人間での争いを回避するための相続(争族:あらそうぞく)対策の方がより重要となる場面が多いのも事実です。
「何が後世の幸せに繋がるのか」を考えたとき、残された貴重な時間とお金は、相続の全体と将来を見据えた相続(争族)対策に費やす方が、より「持続可能的な相続対策」なのではないか、との想いを新たにした事案でした。

<最高裁判例 事件番号 令和2(行ヒ)283 令和4年4月19日判決要旨>
【相続税の課税価格に算入される不動産の価額を財産評価基本通達(以下、「財基通」)の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが租税法上の一般原則としての平等原則に違反しないとされた事例】
① 被相続人(享年94歳)は、他界する3年前に資金の一部を金融機関借入等により賄い(約10億5千万円)、タワーマンション2棟(時価約14億円)を相次いで購入した。
② 相続発生後、共同相続人のうち1名(子・納税者)が遺言により2物件を相続、財基通に基づき当該タワマン2棟を合計約3億3千万円で評価した。更に借入金に伴う債務控除等を適用し、課税価格合計を約2,800万円と算定し、基礎控除を適用した結果、相続税額を「ゼロ」として申告した。因みに、当該物件のうち1棟は相続発生後一年以内に約5億円で売却し現金化された。
③ これに対し国税当局は、財基通6項(※)に基づき、当該タワマンの財基通に基づく不動産評価額は著しく不適当であり、当局依頼に基づき行った不動産鑑定評価額(約12億7千万円)をもって評価額とするのが妥当として、相続人に対する更正処分(課税価格合計約8億9千万円、相続税額約2億4千万円)を行った。
④ これを不服とした相続人(納税者)は、国税当局に対し更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分の取消を求め、訴訟を提起した。因みに、1審、2審共に国が勝訴、相続人は最高裁に上告、最高裁において棄却され国税当局の勝訴が確定。
(※) 財産評価基本通達第6項 「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」とした規定であり、俗に国税当局の「伝家の宝刀」とも呼ばれる規定。